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スキルアップ税務

社長貸付金・社長借入金消去の税務 ~証拠の論点も踏まえて~⑳

2024/02/05

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法人税法上は、有利発行に係る有名な下記の事案、スリーエス事件(東地平成12年11月30日判決)、相互タクシー増資高額払込事件(福井地裁平成13年1月17日判決)の理解は必須です。租税回避認定されれば、当該有利発行は妥当性を失います。ただし、両者の先例としての意義は現在、ひどく後退しています。相互タクシー事件は簡単には下記のような事案です。

 債務超過1億円の法人に対し1億円の出資をし(出資側は(借方)投資有価証券1億円が計上される)、その後、当該有価証券を備忘価額1円で関連会社に譲渡します。そうして1円-1億円の金額を投資有価証券売却損として損金計上しました(数値は仮値、事例は単純化しています。)。

 判決では増資払込金額のうち、寄附金該当部分は法人税法上の評価として払込みした金額に該当しないとされました。法人税法37条を適用して否認しています。寄附金は反射で受贈益課税も考慮の余地があり得ます。

 上記でいえば、増資により新株発行した法人に対する受贈益課税です。名古屋高裁判決文によると、「私法上(商法上)有効な増資払込であっても、法人税法上、それを寄附金と認定することが妥当である。同じ増資払込行為を受入側では増資払込と認定しながら、払込側で寄附金の支出と認めることは法人税法上は何ら異とするに足りない」としており、受入れ側で資本組入、払込み側で寄附金が発生することに矛盾はないと判示しています。現行法人税法においては金銭出資は全て資本等取引で処理され、損益取引が介入する余地は全くありません。

 岡村忠生教授は、下記の問題提起をしています。

・第1は、株式に関する会社法制の変化。この事件は、寄附金となる境界として額面金額すなわち発行価額が利用されたが、もはやこれらは使うことができない。今日であれば、払込金額(会社法199条1項2号)が1株100万円とされ、種類株式を利用して支配が継続したはず。

・第2は、株主法人間取引に関する法人税法の変化。すなわち、2001年改正により法2編1章6款の新設や法24条の改正等が行われ、分割、合併、現物出資による資産の移転は原則として時価移転、適格組織再編成に該当する場合は簿価移転とされた。この区別では、「贈与又は無償の供与」かどうかはの余地がない。これら諸規定もまた「別段の定め」である以上、法22条2項はもちろん、法37条に一方的に劣後すると解することはできない。

・第3は、法132条の主張にも現れている事案の特殊性の影響。本判決は、「対価」の有無を経済的合理性で判断し、「払い込んだ金額」を法人税法上の対価として否認した。

 こうした経済的合理性に基づく判断や私法上有効な取引の実質による上書きは、行為計算否認そのものであり、法37条が一般的に認めているとみることはできない。なお、法132条を、子会社貸付金それ自体が貸倒れ等により損金算入されるかを基準として適用した判決がある。

 この評釈に賛同する論者は筆者を含めて多いようです。

 その他、出向負担金、子会社のうちバックオフィス事業部門を分割型分割で移転し、外注費を獲得するという手法もあります。

(稲見誠一・佐藤信祐『組織再編における株主課税の実務Q&A』(中央経済社、2008年)該当箇所を参照のこと。筆者が要約すると「高額引受けの場合、当該払込金額は原則として有価証券の取得価額として処理する。しかし、法人税法第132条の要件に該当したときのみ、高額相当部分を寄附金課税(法法37)で否認すればよいとする考え方。同様の考え方は適格分社型分割、適格現物出資でも同様(ただし根拠条文は法法132の2)。後者については岡村教授の第2のご指摘に従うと、適格分社型分割等で高額引受けによる有価証券の取得がなされた場合、「移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額」(法令119①七)という法文から当該高額部分のみを寄附金抽出することが現実的に困難であると考えたため」とある。なお、組織再編成に係る否認を考察したものとして朝長英樹『組織再編成をめぐる包括否認と税務訴訟』(清文社、2014年)がある。)

 

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